Vol.06

 「〜その6〜」

結果から言えば、講義には一度も出席せず(勿論、これは四年生の時の話であって、一年生の時は真面目に出席して講義を聴いたが、選択必須ということもあって、試験を受けていなかった)、試験も受けないで単位を貰った例は、日本広しと言えどもそう多くあるまい。

自慢しているわけではないのだが、兎に角、有難かったことは事実だ。そこで私は嬉しさもあり、親しくしている同期の友人に、ついこの話をしてしまった。

この友人は体育系のクラブに属していて、割と人付き合いが良く、まあ、俗に言うと、おしゃべりの部類だった。

ところが、この友人は、体育系クラブにいる連中に、私の話をしてしまったのだ。そうすると私と同じように単位が取れていない学生達がこの話を聞きつけて、機械科の教授のところに押しかけ「自分達も単位を貰えるようにしてください」と頼み込んだというのだ。

恐らく教授は「ヤレヤレ、あの馬鹿(私のこと)!つまらないことをしゃべったな!」と思ったに違いない。私は呼び出されきついお叱りを受けた。

親身になって私に助け船を出してくれた教授に対して、立場が困るようなことをしてしまった軽率な自分を恥じ、とても申し訳ないことをしてしまったのだと深く反省した。

勿論、悪気などあろう筈もないのだが、私の「軽率な口」が教授を困らせることとなり、結果的に「恩を仇で返す」とはこのようなことを含めても言うのだろう・・・と自分自身の未熟さを思い知らされて、暫く落ち込んでしまった。

 これまでに、ノンポリだった私は学生運動のことを全く知らないのも・・・と思い、「我が心石にあらず」(著者を覚えていないし、内容も思い出せないのだが・・・)という本を読んだとき、その中にあった「何かを知っているからと言って、何処ででもそれを話して良いわけではない」の下りで、ハッと我が身を振り返ったことがあり、己を戒めていたにもかかわらず、

これが全く身に付いていなかったことになるので、余計に自分を落ち込ませる心を押した。

 今になって思うと、多くの学生がやってきて「単位をくれ!」と言われても、来た学生達全員にそのようなことをしてやれるわけがない。

私にとっては温情であるが、大学や公平な見地(平等)からしてみれば、これは背任行為であり、ある意味不正に近い。

もし、このことが公となり、多くの人の知るところとなれば、私を助けてくれた二人の教授は非難を受けるだろうし、立場をも悪くしたに違いない。その上、私の単位も取り消されたかも知れない・・・。

若い頃には良くありがちな「自分はもう大人で、自分の考えだけでやって行ける」の思い上がりを絵に描いたような出来事だった。

                            次回から、いよいよ建築士資格取得の経緯をお話しします。