Vol.01

 建築全般に規制をかけている建築基準法なるものがあることは、皆さんもご存知だと思いますが、建築設計か建設工事に関る人(職人は除く)以外は、まず読んだ事はないだろうと思っている。私が建築基準法を理解するのに、若い時であったが十年近く必要だったし、今でも少しだが解からないところがある。

(この先をNHKのプロジェクトXの口調で読んでください)

「二十代の時初めて建築基準法に目を通した。日本語で書いてあった。読めるのだが、何が書いてあるのか分からなかった」皆さん、一度試しに読んでみて下さい。成人した日本人が、読む事は出来ても内容の理解が出来ないものなのです。そもそも法文と言うのは成人した者の誰もが読んで解かるものでなくてはならない筈のものである。(そうでなければ法律は、国民の為にあるとは言えず、法律家の為にあることになる)が、そうはなっていない。

ある時知合いの弁護士から電話があって、「川田さん、建築の訴訟を引き受けてしまったので、建築基準法を読んでみたが、さっぱり解からない、教えて」であった。

法律の専門家が読んでも直ぐには理解が出来ない代物なのだ。なぜかと言うと、その記述内容は整理整頓が出来ない人の机の引出しの中の様な状態。いや、嘔吐物を一つ一つ調べて、元の食べ物の姿に戻すような作業を強いられるような事をしなければならないからである。

つまり、系統立てて書かれていない上に、同じ言葉で数種類の意味を持つものがあり、矛盾した内容もあるので、部分的な理解は出来ても全体が不明瞭になり、書かれている内容も半端ではないから、一度や二度読んでもさっぱり解からない。建物を考える時、一体どうすれば良いのか・・・?と言った状態になってしまう。そしてこの建築基準法は三大ザル法のうちの一つと呼ばれていて、不思議な法律なのである。

ほんの一例を示すと、例えばこういう事がある。階段に関する内容(階段の有効幅や蹴上げ、踏面の寸法や手摺のことが定められている。)で、建築基準法施行令第27条(特殊の用途に専用する階段)に、次のように書かれている「第23条から第25条までの規定は、昇降機機械室用階段、物見塔用階段その他の特殊の用途に専用する階段には、適用しない」とあるので、エレベーター機械室に行く階段の蹴上や踏面などに法の規制はないと思っていたら、その157頁後に、第二節「昇降機」の中の建築基準法施行令第129条の9(エレベーターの機械室)第5号に「機械室に通ずる階段の蹴上げ及び踏面は、それぞれ、23p以下及び15p以上とし、かつ、当該階段の両側に側壁又はこれに代わるものがない場合においては、手摺を設けること」と書かれている。日本人の誰が読んでも、どちらを採用すれば良いのか?理解が出来ないと思っている。それとも、昇降機機械室用階段はエレベーターの機械室に通ずる階段を指すのではなく、別な事を表現しているのか?しかし、常識ある人なら100人が100人同じものと捉えるのではないだろうか?でも、行政はこのままの状態を数十年放っている。

行政の考え方は次の様だと言う。ある法文や指導に間違いと思われる箇所があっても、それを決めた先輩に(現在はとても偉い役職に就いている)に対して誤りであった事を指摘するような失礼なことは出来ない。
恥をかかすことになるのだそうだ。国民に対して失礼とは思わず、国民を犠牲にして税金で生計を立てている官僚共は万死に値する。一向にこの世の中が住み易くならない訳は、こんなところにもある。

次回は、その具体例を挙げて説明してみますので、ご理解頂けると思います。