Vol.02

 ※私が二十代前半の頃、あるとんでもないことに気付いたのです。

今から35年以上前、当時の車の座席にはヘッドレストなるものは付いていなかった。それから何年か経って、ムチ打ち症なる事故の後遺症が社会的に取り上げられ、車にはヘッドレストが装備されるようになってきた。その時の事なのです。

車の運転中に後頭部をヘッドレストにつけていると、何やら思考力が低下して、注意力も散漫になっているように感じ、頭を離すと感覚が正常に戻ったように思えるので、何度か繰り返しやってみた・・・、やはり同じ感覚を生じるので「はて、不思議なこともあるものだ・・・」と思い、なぜだろうと少し考えてみると、まてよ、人間の首から上の部分が何かに触っている状態は日常生活なら寝ている時だけだ!体は起きていても、頭が何かに触れた途端に条件反射のように脳は寝ている状態を作り出すに違いない。生まれてこのかた何十年もそうしている。それで思考力が低下し、注意力が散漫になる感じがするのだ・・・と世紀の大発見をしたか如く心の中で喜んだ。なに、ただ疑問に思ったことが一応納得できたことだけなのだが、こんな学説を今まで聞いた事がなかったので妙に嬉しくなっただけだ。

 そして、ハタと思った。ロダン作の「考える人」は頬杖をして考えている。あの状態では思考は休止しているんだろうから、あの題名は「考えるふりをする人」に変更するべきではないかと思ってしまった。人々は悩んだり困ったりすると、よく頭を抱え込んだり、兎に角首から上によく手を当てる習性は、東西を問わないような気がする。ハタ目から見ると、とても何かに苦しみ、考えている様には見えるので、悩んでいる様子を人に知らせるには都合の良い格好なのだが、実際は脳の思考が停止している。大体こんな姿で悩んでいる悩み事は、本来解決のつかない事を悩んでいることを知っているので、下手な考えを休むに似たりで、考えない訳にもゆかないが、考えても答えが出ない。

それじゃあということで体が防衛本能を働かせ、自然に首から上に手を当てる仕草をするのではないか・・・。と言う建築家が考えた医(異)学説である。

皆さん一度車に乗って試してみて下さい。
私と同じ感覚が生じたら、私の説は本当と思ってください。
もし何ら変化を感じなければ“あなたは鈍いのです”。