Vol.01

 「〜その1〜」

  私を含め、団塊の世代と言われている人達の父親は、第二次世界大戦の戦地から生還した人達が多い。父親がご存命なら年齢は九十才前後であろう。

若いとき(十代後半から二十代前半)に徴兵されて戦地に赴き、想像を絶する辛苦を舐めながら戦い抜いたけれども、結果日本は欧米に負けてしまい、復員して家族の待つ日本へ帰ってきた(しかし戦地では終戦に近づくに連れ、米国の圧倒的な兵力と火力や物資の量に驚き、負けを覚悟し、死も覚悟していたであろうと思っている)。

 そして、復興してゆく日本で目にしたものは、明るく、自由で豊か(物質的に)な進駐軍、アメリカの姿だ。進駐軍の様子と比較すれば、自分達が子供の頃に過ごした日本は、きっと随分と暗く閉鎖的で封建的に感じられたことだったであろう。

欧米の異文化に触れ、今までの日本は何処か何か間違っていたのではないか?と思ったり、感じた者が多かったはずだと想像する。

その子供達である私達ですら、大人になって行く過程で同じように感じ、欧米に憧れた時期があった。当時はマスコミを含め、日本の社会全体がそういう風潮下にあったことを記憶している。

 冷静に考えれば、ちょうど江戸時代の末期に、ペリーが黒船を率いて日本にやって来た時に、為政者達が感じた感覚と同じ様なことが(丁度今NHKの大河ドラマ「篤姫」でこの辺りの描写をやっている)もう一度昭和の時代に起こったと考えてよいのではないかと思っている。
とは言っても、昭和に起こった衝撃は軍事力ではなく、生活習慣や、平等・自由など人間的な意識の部分である文化的衝撃だ

 余談的補足をすれば、明治維新直前に日本が欧米から受けた衝撃は、欧米の持つ軍艦や兵器の能力の圧倒的な差であり、為政者達は驚き、震撼した。そして新しい軍艦や兵器を購入し、欧米を学び、先ではその製造も始めるようになる。

又欧米の軍艦の乗組員(兵士)は一般市民から募集して構成されている事にも驚き、長州藩(現山口県)では高杉晋作が欧米を真似て、一般人から兵隊を募集して軍事訓練を行い、軍隊を組織するようにもなる。
この軍隊が徳川幕府を倒すことになるのだが、武士よりも商人の方が金銭的な力を持つようになっていた背景のもと、食えない下級武士の憤りも凄まじいものがあったのだろうし、貧しかった一般市民は一旗揚げようと、こぞって兵隊に志願した。

一般市民は鉄砲の扱い方と撃ち方を学び、集団で行動する訓練を積めば即軍隊に早変わりできるようなそんな時代だ、兵隊の予備軍はいくらでもいる。方や徳川幕府の戦闘集団は武士だけで、鉄砲が扱えるのは鉄砲隊のみ、戦法として鉄砲の重要性は認識していても、武士は本質の部分で武士道に生き、誇り高き精神と魂は、まだ刀に宿っていた。武士は通常鉄砲は扱わない。大砲や鉄砲が主力となっていた戦争なのに、これでは戦にならない、負けて当然の結果だったはずだ。

 日本の歴史をふり返って見ると、戦国時代までは領地の百姓が戦に駆り出されていたので、農繁期になれば、とても戦など出来る状況ではなかった。
しかし織田信長が初めて侍(足軽を含め)による専属戦闘集団を組織(一年中何時でも戦が出来る体制)して以来、豊臣秀吉による刀狩り(それまで百姓達が持っていた武器を取り上げる)に始まり、後に江戸時代で確立される身分制度(士農工商)などにより、明治維新までは戦闘集団は支配階級の武士のみであった。

 明治時代には欧米の兵器と兵隊の組織力などの軍事的な力に驚き、昭和になって敗戦後は物質と文化的と思われる?差に驚いたのが今を構成する日本だ。
欧米を学び新しい軍隊を組織して薩長連合は徳川幕府を滅ぼし、明治時代になると政府は欧米を手本にして郵便・銀行・教育(学校)・交通・通信など、あらゆる生活基盤の整備を始めている。
欧米に比べると確かに軍事力や生活の基盤は比較にならないほど劣ってはいたが、有史としてはっきりしている飛鳥時代から続いてきた江戸の文化(日本の文化)は本当に欧米と比較して劣っていたのだろうか?。

 学生時代何かの本で読んだ記憶にあるのが次の言葉である。確か明治時代の著名な人物の話に「物質は欧米に学べ、精神は東洋に学べ」とあったが、その言葉は忘れ去られ、捨てられて今に来ている日本は、戦後「物質は欧米に学べ、精神も欧米に学べ」になり、欧米そのものになってしまっている。
戦中戦後に比べ身の回りの道具や食生活など、生活水準は欧米を凌ぐほど豊かになった日本に住む日本人が何故?心から豊かになったと感じられないのか?何故こんなにもの足らなさを感じるのか?何故将来に希望がもてないのか?何故こんなにも一般の人が凶悪犯罪を犯すのか?何故若者の躾が出来ていないのか?何故毎日が窮屈に感じられてしまうのか?何故世界一勤勉で誠実だった国民が、何故世界一の教育水準を維持していた日本が、文盲率の高い欧米以下になってしまったのか?その元凶を探る。

 詳細は次回から